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東京高等裁判所 昭和38年(ネ)1439号 判決 1964年5月20日

被控訴人 東京相互銀行

理由

控訴人は「被控訴人が控訴人に代つて、保険会社との間で、控訴人の商品について、保険金額七五万円、保険料三、〇〇〇円の火災保険契約を締結する約束ができていた。」と主張するが、同事実を認めるべき証拠がなく、かえつて、原審及び当審証人富山万吉、佐藤里子の各供述によれば、控訴人と被控訴人との間において保険金額及び保険物件について全く話合がなされていなかつたこと、話合がなくても暗黙のうちにこれらの点について了解があつたと認めるべき事情も存しなかつたことが認められる。しかのみならず、成立に争いない甲第一号証、乙第八号記、原審証人富山万吉、津山斉、鈴木孝之助の各証言によれば、被控訴人が控訴人に昭和三六月一一月三〇日金三〇万円を貸付けたこと、被控訴人が控訴人の所有物件の火災保険に質権を設定する必要があると認め、右貸付より一両日前保険会社に対する質権設定承認請求書に控訴人の署名を求め保険金額保険の目的欄等を記載ないまま残し、かつ、貸付金から保険料として金三、〇〇〇円を控除して預つたこと、それまで、保険金額及び保険物件についてはなんら話合がなされていなかつたこと、保険金額及び保険物件は被保険者の利害に関することであり、また、既に保険が付されてあれば更にこれをつける必要がないので、被控訴人が代つて保険契約をするには、これらの点について控訴人と打合せ保険契約申込書を徴して後に行なうものであること、被控訴人が右署名を求め保険料を預つたのは、打合せが完了した後保険に付する必要があればこれに付し、保険金に質権の設定を受けることを確保するためなされたものであること、右打合せが行なわれるより以前に控訴人が火災にあつたことが確められる。右事実によれば、被控訴人が控訴人の保険金に質権を設定するため質権設定承認請求書に署名を求め、新しく保険契約が必要で被控訴人が控訴人に代つて保険契約をする必要がある場合に備えて保険料として金三、〇〇〇円を預つたのに過ぎず、控訴人に代つて保険契約をするには新保険の必要性、金額、目的物につき控訴人と相談する必要があるのであつて、いまだ控訴人に代つて保険契約を締結することを約したものではないと認められる。

然らば、商品を保険目的とする火災保険を被控訴人が控訴人に代つて契約する定めであつたことを前提とする本訴請求は、既にこの点で排斥を免れず、これと同趣旨の原判決は相当である。

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